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日本のポテチショックとTPPをつなぐ点と線

4月初めのパニックのピーク時には、日本の大手テレビ局が軒並み、進行中の「ポテチショック」に関するものものしい番組を放送した。ジャガイモ不足に直面し、日本国民のお気に入りのポテトチップス(ポテチ)の生産が一部休止されることが明らかになったのだ。

4月初めのパニックのピーク時には、日本の大手テレビ局が軒並み、進行中の「ポテチショック」に関するものものしい番組を放送した。ジャガイモ不足に直面し、日本国民のお気に入りのポテトチップス(ポテチ)の生産が一部休止されることが明らかになったのだ。

テレビ画面の映像の進行は、どの番組もほぼ同じだった。まず、日本人が普段から知っている大好きなブランド(ピザ味やフレンチサラダ、しょうゆマヨネーズ味など)が映し出され、次に買い占めで空っぽになったスーパーの棚、そして、ポテトチップスがない夏のピクニックシーズンを嘆く、落胆した庶民の映像が流れる。そして最後に、問題の発端とされるものが映し出される。昨年夏の台風で水浸しになった北海道のジャガイモ畑だ。チップス不足の問題は根深いが、農業がらみというよりは政治的な理由に伴う説明は意図的に薄っぺらい内容にとどめられた。

海外から調達しない理由

世界第3位の経済大国の食品・飲料市場で、単発の国内異常気象にこれほど敏感に反応するのは、直感的におかしい。問題は9カ月前に分かっており、ジャガイモは国際市場で盛んに売買されているからだ。この脆弱性は、日本が将来、こうした状況にどう対処するか、また安倍晋三政権が崩壊した環太平洋経済連携協定(TPP)の枠組みを復活させるのにこれほど熱心に見えるのかについて、珍しい手がかりを与えてくれる。

では、カルビーや湖池屋などの日本のポテトチップスメーカーはなぜ、2016年の不作の後、単純に外国産のジャガイモの仕入れを増やさなかったのだろうか。世界的にジャガイモ不足は生じておらず、日本は間違いなく、農産品を大量に輸入している。日本の食品業界は過去20年間、約40%の国内食料自給率(カロリーベース)で稼働してきた。ジャガイモの場合、日本で(さまざまな形で)消費されるジャガイモの約80%が海外(主に米国)から来ている。輸入された米国産生鮮ジャガイモ――現在休止されているチップスブランドの生産に使えるタイプのジャガイモ――にかかる4.3%の関税は、法外に高いようには思えない。

この問いに対する答えは、保護主義の牙城を築く日本の農業ロビー団体の力と、一連の非関税障壁を設けるうえで北海道が成し遂げた大成功にある。日本は何十年も前から、生鮮ジャガイモ(ファストフードのフライドポテト用の乾燥ポテトとは別)の輸入を阻止する理由として、疫病への懸念を挙げてきた。この立場は11年前に緩和されたものの、日本はまだ、米国の限られた州から、1年のうち特定の月に限定し、日本の港の近くにある工場で加工されるという条件でしか生鮮ジャガイモの輸入を認めていない。

だが、規制と同じくらい有効だったのは、農業ロビー団体が保護主義的な信条を消費者に教え込んだことだ。国産の農産物はどんな外国産品よりも品質が高く、例えば、最高のポテトチップスは北海道産のジャガイモで作らなければならない、という考えだ。このため、ポテチショックについて聞かれると、カルビーなどのメーカーは肩をすくめ、輸入ポテトでは品質基準を満たせないと説明する。

TPP、農業改革への近道だったが…

生鮮ジャガイモに対する輸入制限は極端な例だが、2016年2月に参加12カ国によって署名された(ただし批准はされていない)合意で決着したTPP交渉は、日本が国内農家を保護する激しさを浮き彫りにした。米国は、一部では1000%にものぼる日本の関税について指摘した。

TPP参加を決めた日本の決断は、こうした現状の大部分を吹き飛ばすことに腹をくくった、としばしば控えめに表現されてきた。つまり、ロビー活動や縁故主義、利益供与、策略が織りなす政治的原風景が、もはや日本の利益にはなっていないとする覚悟だ。生鮮ジャガイモの場合、疫病予防に関係した非関税の輸入制限さえ緩和されることになっていた。安倍政権は、農家を相手に回し、TPPを成立に持ち込むために、大きな政治的資本を費やした。TPPは多くの指導者の政治的生涯に準ずる時間を要したかもしれない日本の農業・農産品市場改革への大幅な近道を切り開いた。

そう考えると、日本が今、勢いが失われることを許さず、TPPを復活させる取り組みを主導しているのは意外ではないのかもしれない。ピクニックに出かけ、小腹をすかした日本人にとっては、2017年ポテチショックは困りごとの一つだが、安倍氏にとっては、政治的業績がすり抜けていく光景なのだ。