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 知恵には欠ける人工知能(AI)投資

株式市場でもうける魔法の公式を持っている人がいたら、自分だけの秘密にしておくだろう。

株式市場でもうける魔法の公式を持っている人がいたら、自分だけの秘密にしておくだろう。金融市場でなんとも不思議なのは、最も優秀な投資家たちが投資の秘訣を公然と明かしながら損をしているようには見えないことだ。

ウォーレン・バフェット氏は、何十年も前から自分の投資手法を繰り返し世間に説明している。バフェット氏自身が自分の投資の内容と理由を説明するだけでななく、米国の規制のおかげで同氏がどんな株を保有し、それをいつ買ったのか、直近3カ月に至るまでの記録を誰でも見ることができる。この情報にアクセスしたければ、インターネットに接続する程度のことで済む。

これは間違いなく奇妙だ。成功している投資家が秘訣を明かせば、簡単にまねされて、強みは消えてしまうのではないのか。コンピューター主導の投資戦略の開発に大金を投じている人たちは、そう思いやすいだろう。人工知能(AI)投資では独自の知識を必死で守ろうとする。

そうした会社は、他社が手掛けるコンピューター主導の投資にも人手だけによる投資にも勝る手法の開発に大金をつぎ込み、高給で人材を雇い入れている。

「人工知能」という言葉の厳密な意味と使い方は人によって異なるが、AIは投資の世界に革命を引き起こす力を持ち、やがてバフェット氏のような投資家の素朴な知恵は時代遅れになるという考え方が急速に受け入れられている。

AIで人間を「打ち負かす」

コンピューターでどんな魔法が作られようとしているのか、確かなことはわからないが、そうした会社の発表などを見るかぎり、市場で人間を「打ち負かす」という考えに取りつかれているようだ。そして、その人間を「打ち負かす」ということは、ある種の人々が重要視する情報を人間の脳よりも速く効率的に処理することを意味する傾向にある。

そうした野心的なファンドの一つであるエマAIの創業者は、アルゴリズム取引は手がけずに「文字通りアナリストの複製」を目指すと言っている。他のプログラムには織り込まれない欧州の金融政策といったような事柄を考慮に入れるのだという。

バフェット氏が投資手法をオープンにしたままでこられたのは、市場で大多数の人々が間違いを繰り返しているがゆえに強みを保てているからだ。

人間をまね、人間のゲームで人間を打ち負かす技術を創り出そうとしている新種のファンドは、人間の投資家の最も悪い特徴をすべてまねるだけの結果に終わるかもしれない。

欧州の金融政策が米テスラの株価に及ぼす影響を考えるのに長い時間を費やしたり、「グローバル経済のあらゆる情報をさばく」ことを目指したりするなど、コンピューターが人間の投資戦略を学習しているのだとしたら、AI投資はもう負けが決まっているかもしれない。

人々が市場について考える材料にしようとする情報やデータの大部分は、個別銘柄の値動きにはほとんど意味を持たない。よく知られているようにバフェット氏は、「マクロの見解をまとめたり、他人のマクロ予測や市場予測に耳を傾けたりするのは時間の無駄である」と語っている。コンピューターは大量の経済データの処理に強みを発揮するだろうが、経営者の性格やブランドの持久力に関する見極めなど、バフェット氏が卓越性を示してきた質的な判断には苦しむかもしれない。

投資家は助言に留意しない

(ファンド・マネージャーの)セス・クラーマン氏は、すでにバフェット氏など他の投資家たちが教えを授けているのに世間はまったく聞こうとしないことがわかっているので、自分の投資の秘訣を本にまとめてもいいと書いている。「そうした賢明な助言を気に留めない投資家は、私の言うことも聞かないはずだ」という。人間の歴史は、新たな技術が台頭しても、この点が変わることにはならなさそうであることを示している。

金融市場は誕生以来、欲と恐怖に動かされてきた。どれほど技術が進歩しても、人間の性質は変わっていない。大資産家のカール・アイカーン氏は、こう言い表している。「人工知能を研究して金持ちになる人たちがいる。私は人間生来の愚かさを研究して金をもうけている」